東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1281号 判決
そこで佐藤の右不法行為が控訴会社の業務の執行につきなされたものかどうかについて按ずるに、証券業者の外務員は証券取引法第五十六条に定められているように、証券業者の営業所以外の場所において証券業者のために有価証券の募集もしくは売買又は有価証券市場における売買取引の委託の勧誘に従事することを本来の職務とする者であるが、その職務権限は右の範囲のみに限定されるものではなく、一般に証券業者が顧客との関係を永続的にし将来売買取引の委託註文を受ける上に有利ならしめるため顧客に対する奉仕として行うところのその附随的業務である株式の名義書換請求手続及び増資新株の株金払込の手続等の事務につき、顧客の依頼を受けて処理することも、また外務員としての権限に属するものと解すべきである。この点に関する当裁判所の判断は原審の見解と同一であるから、原判決の説示を引用する。原審証人三上達弥、同二宮悟夫の各証言のうち、証券業者は顧客に対する奉仕として株式の名義書換手続等を行なつているとの供述部分は右認定に副うものであり、原審並に当審における控訴会社代表者尋問の結果のうち右に反する供述部分は採用することができない。そして原審証人大石正照の証言、当審証人佐藤喜代治の証言の一部並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和二十七年頃より佐藤を通じて控訴会社と株式の売買取引を為していた者で、控訴会社の古き顧客と認むべきところ、前示のとおり、佐藤が被控訴人より株式の名義書換及び増資新株の株金払込の手続を委任され、株券及び現金の預託を受けながら、これを擅に他へ売却し或は費消したことは、控訴会社の被用者としてその業務の執行につきなした不法行為であるといわなければならない。
(奥野 野本 後藤)